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青森地方裁判所 昭和43年(行ウ)15号 判決 1972年2月26日

青森県五所川原市字大町一九番地

原告

有限会社 松屋糸店

右代表者清算人

斉藤陽子

右訴訟代理人

弁護士

寺井俊正

同県同市字柳町一番地

被告

五所川原税務署長

長谷川政司

右指定代理人

村重興一

山内照夫

加藤淳三

伊藤洋逸

竹内巌

角張東庸

右当事者間の法人税額更正処分など取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

被告が原告に対し、昭和四〇年一二月二七日になした別紙第一の目録記載の各処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

主文と同旨の判決

第二、原告主張の請求原因

一、原告は、昭和三九年八月三一日、被告に対し、昭和三八年七月二五日から昭和三九年五月三一日までの事業年度(以下単に第一事業年度という。)分の法人税確定申告をなすにあたり、その課税標準である所得または欠損の金額につき、金一三、四九八、〇七九円の欠損である旨の確定申告書を提出した。

また原告は、昭和四〇年七月三一日、被告に対し、昭和三九年六月一日から昭和四〇年五月三一日までの事業年度(以下単に第二事業年度という。)分の法人税確定申告をなすにあたり、所得の金額を金一九六、七七〇円、法人税額を金六〇、九〇〇円とする確定申告書を提出した。

二、ところが、被告は、いずれも昭和四〇年一二月二七日、原告に対し、別紙第一の目録記載の第一、第二の各更正処分ならびに各賦課決定処分(以下単に本件各処分という。)をなし、その頃、右各処分を原告に通知した。

三、しかし、本件各処分には次のような違法がある。

すなわち、被告が本件各処分をなした主たる理由は、第一事業年度分について、原告がその確定申告書に添付した貸借対照表(別紙第二の貸借対照表(一))の負債、資本の部に計上した受取保険金一七、五五二、二七四円を否認し、わずかに保険差益特別勘定として金三六四、二二七円ならびに訴外斉藤松次郎からの借入金として金二、一四六、〇一九円のみを計上することを認め、第二事業年度分についても、原告がその確定申告書に添付した貸借対照表(別紙第三の貸借対照表(三))の負債、資本の部に計上した社長勘定金五、七二〇、六五五円のうち、社長勘定として金二、一四六、〇一九円を、保険差益特別勘定として金三六四、二二七円を認めるのみで、その余を否認したことによる。しかし、第一事業年度における受取保険金は、全額が同訴外人からの借入金であり、第二事業年度分の社長勘定たるべきものも、原告が計上したとおりであるから、原告が提出した貸借対照表の記載に何ら誤りはなかつた。被告はこの点の事実認定を誤つて、本件各処分をなしたのである。

四、そこで、原告は、本件各処分を不服として昭和四一年一月二四日被告に対し各異議の申立をなしたところ、同年四月二二日右申立棄却の決定がなされたので、同年五月二三日仙台国税局長に対し各審査請求をなしたが、昭和四三年五月三一日右請求棄却の裁決がなされ、同年六月一七日裁決書の謄本が送付された。

五、よつて、原告は本件各処分の取消を求める。

第三、請求原因に対する被告の答弁ならびに主張

一、請求原因の一、二ならびに四の各事実は認める。

二、被告が別紙第一の目録第一の更正処分ならびに無申告加算税の賦課決定処分をなしたのは、次の理由による。

(一)、1 原告は、第一事業年度分の確定申告にあたり、法令で定められた添付書類として営業報告書、貸借対照表およびその附属明細書を提出したが、右貸借対照表には別紙第二の貸借対照表(一)のとおり記載されていた。

2 被告は、右貸借対照表に基づいて調査を行つたところ、その作成の基礎となつた帳簿書類の備付が不完全で、事実の所得金額の計算ができない状況であつたので、その各勘定科目について個個に調査し、その結果に基づき、各勘定科目について内容を検討して、別紙第二の貸借対照表(二)を作成し、同事業年度分の所得金額を一、四二八、七一四円と認定し、その旨更正したのである。

(二)、右貸借対照表(二)の負債、資本の部に計上した保険差益特別勘定金三六四、二二七円ならびに借入金三、七七六、九二四円の計算の根拠は次のとおりである。

1 原告は、昭和三八年七月二五日訴外斉藤松次郎がそれまで個人で個人で営業していた毛糸、雑貨等の卸小売業を有限会社組織にしたもので、右訴外人とその親族ら三名の社員からなる資本金一、〇〇〇、〇〇〇円の同族会社であるが、右法人成りに際し、右訴外人からその営業にかかる資産、負債の全部およびその営業の用に供していた青森県五所川原市上平井町一二五番地所在、家屋番号同町七六番の二木造モルタル三階建店舗兼居宅(以下単に建物という。)総床面積四二九、六平方メートルのうち主として店舗部分(床面積二六五、五平方メートル)の譲渡を受けたが

2 右訴外人は、右法人成りに先立ち、別紙第四の一覧表に記載のとおり各火災保険契約、共済契約を締結していたところ昭和三九年二月二一日火災によりその保険、共済の目的である商品、建物の大部分が焼失した。

3 (イ)、原告は、昭和三九年三月一六日、訴外大正海上火災保険株式会社(以下単に「大正海上火災」という。)から前記焼失商品に対応する保険金として金一一、六四〇、〇二五円を受領した。

(ロ)、訴外斉藤松次郎は、訴外株式会社弘前相互銀行に対する債務担保のため訴外日新火災海上保険株式会社(以下単に「日新火災海上」という。)との間の火災保険契約から生ずる保険金請求権に質権を設定していたところ、その保険の目的である建物が焼失したことにより、右訴外弘前相互銀行は、右質権に基づき、同月一七日、日新火災海上から右焼失建物に対応する保険金として金四、九三〇、九一七円を受領した。

(ハ)、原告は、同年二月二九日、訴外青森県火災共済協同組合(以下単に「青森県火災共済」という。)から前記焼失商品に対応する共済金として金二九四、四〇〇円を受領した。訴外斉藤松次郎は、同日、右共済組合から前記焼失建物に対応する共済金として金六八六、九三二円を受領した。

(ニ)、その後、右受取保険金、共済金の全額金一七、五五二、二七四円は、原告会社に受取保険金として入金したものとして処理されている。

4 原告は、前記法人成りに際し、訴外斉藤松次郎から前記保険、共済の目的である全商品を譲受けたことに伴い、その保険、共済契約上の権利も右訴外人から譲受けたので、自ら被保険者、被共済者の地位に基づき前記3の(イ)、(ハ)のとおり右商品に対応する保険金、共済金の全額金一一、九三四、四二五円を取得したのである。これは、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法(以下単に旧法人税法という。)九条(右改正後の法人税法二二条二項参照)により益金に算入されるものである。従つて、被告は、原告が前記貸借対照表(一)の負債、資本の部に計上した受取保険金のうち、右焼失商品に対応する分の金額を除算したのである。

5 (イ)、訴外斉藤松次郎は、右法人成りに際し、前記保険、共済の目的である建物の一部を原告に譲渡したことに伴い、右建物部分の保険共済契約上の権利も原告に譲渡したのである(商法六三〇条、六五〇条、中小企業協同組合法九条の七の二、九条の七の四参照)。

仮りに、右訴外人が右保険、共済契約上の権利を原告に譲渡したのでないとしても、もともと事故の発生によつて支払われる保険金等は、当該保険等にかかる実質的な利益を受ける者、すなわち保険等の目的の所有者に支払われるべきであるから、右焼失建物に対応する保険金、共済金のうち原告に譲渡された建物に対応する分は原告において受領する権限であつたというべきである。

(ロ)、右建物は、前記(二)の1のとおり原告の所有部分が床面積二六五・五平方メートル、右訴外人の所有部分が床面積一六・一平方メートルであり、坪当り価格は全部同一であつたとみるのが相当であるから、右建物に対する両者の持分割合四は、原告分が六一、八パーセント、右訴外人分が三八、二パーセントとなる。右焼失建物全部に対応する保険金、共済金は金五、六一七、八四九円であるから、これを右持分割合により按分すると、原告の所有分に対応する分で金三、四七一、八三〇円、右訴外人の所有分に対応する分が金二、一四六、〇一九円となり、それらが両名にそれぞれ帰属したことになる。

(ハ)、右原告に帰属した金三、四七一、八三〇円は旧法人税法九条により益金に、これから右原告の建物持分の帳簿価格金三、一〇七、六〇三円を控除した残額金三六四、二二七円が旧法人税法施行規則一三条の二(法人税法四八条参照)により保険差益特別勘定として損金に(法人税法上保険差益金は原則として益金となるのであるが、法人が被害年度の翌事業年度開始の日から二年以内に保険金等をもつて代替資産を取得しようとする場合において保険差益金額を特別勘定として経理し、確定申告書にその明細書を添付した場合には所得の計算上損金に算入することができると定めているところ、原告は右の経理および申告手続をしなかつたものであるが、被告は、原告がその後右保険金等をもつて代替資産を取得すると認め、その保険差益金を特別勘定として損金に算入した。)それぞれ算入されることとなる。

(二)、また、右訴外人に帰属した保険金、共済金二、一四六、〇一九円は、原告に入金されているから、原告が右訴外人から借入れたもの(いわゆる社長勘定)と認め、被告は、右貸借対照表(二)のとおり借入金の一部に右金額を計上したのである。

6 原告は、右貸借対照表(一)の負債、資本の部に借入金として金九八〇、〇〇〇円を計上しているが、これは金九六〇、〇〇〇円の誤りであり、そのほか、原告会社が法人成りの際訴外斉藤松次郎から資産の譲渡を受けた対価の未払い残金六七〇、九〇五円があり、これらを右貸借対照表(二)の負債、資本の部に借入金の一部として計上した。

以上のように、被告は、前記貸借対照表(一)の負債、資本部に計上された受取保険金の全額を一応除算し、これに代えて、右貸借対照表(二)のとおりその負債、資本の部に、保険差益特別勘定として金三六四、二二七円を、借入金として前記5の(二)ならびに6の計金三、七七六、九二四円をそれぞれ計上したのである。

(三)、原告は、前記第一事業年度分の確定申告書を昭和三九年八月三一日被告に提出したが、、同事業年度の終了の日は同年五月三一日であるから、旧法人税法二一条に定める提出期限を徒過した後になされたことになる。そこで、被告は、国税通則法六六条により無申告加算税金四七、一〇〇円を賦課決定した。

三、被告が別紙第一の目録第二の更正処分ならびに過少申告加算税賦課決定処分をなしたのは次の理由による。

(一)、1 原告は、第二事業年度の確定申告にあたり、法令で定められた添付書類として貸借対照表およびその附属明細書、損益計算書などを提出したが、右貸借対照表には別紙第三の貸借対照表(三)のとおり記載されていた。

2 被告は、右各書類に基づいて調査を行つたところ、それら作成の基礎となつた帳簿書類の備付が不完全で、真実の所得金額の計算ができない状況であつたので、右貸借対照表の各勘定科目について個個に調査し、その結果に基づき、各勘定科目について内容を検討して、別紙第三の貸借対照表(四)を作成し、同事業年度分所得金額を金一、三九六、七一二円と認定して、その旨更正した。

(二)、右貸借対照表(四)の負債、資本の部に計上した保険差益特別勘定の金三六四、二二七円ならびに借入金五、一〇六、九二四円の計算の根拠は次のとおりである。

1 右保険差益特別勘定の金三六四、二二七円は、第二事業年度においても異動がないため前記第一事業年度と同額を計上した。

2 右借入金の金五、一〇六、九二四円は、前記第一事業年度の訴外斉藤松次郎からの借入金(いわゆる社長勘定)二、一四六、〇一九円がそのまま残存しているものと認め、これと、右訴外人から法人成りの際資産の譲渡を受けた対価の第二事業年度末における未払残金一六〇、九〇五円および他からの借入金(短期借入金)二、八〇〇、〇〇〇円を合計した金額である。

つまり、被告は原告が提出した前記貸借対照表(三)の負債、資本の部にある社長勘定金五、七二〇、六五五円のうちの金二、一四六、〇一九円と、保険差益特別勘定金三六四、二二七円のみを同部に計上し、その余は同部から除算したのである。

(三)、また、第二事業年度分について更正処分の基礎となつた事定のうち、その更正前の税額の計算の基礎とされていなかつたものについては、右計算の基礎としないことにつき正当な理由がなかつたから、被告は、国税通則法六五条により、更正処分により新たに納付すべき税額に対し過少申告加算税金一八、六〇〇円を賦課決定したのである。

第四、被告の主張に対する原告の答弁

一、(一)、原告が第一事業年度の確定申告にあたり、別紙第二の貸借対照表(一)を提出したこと、同年度の買掛金、支払手形の金額が被告作成にかかる貸借対照表(二)に記載のとおりであることは認めるが、同表負債、資本の部の保険差益特別勘定、借入金、当期純利益の各金額については争う。

(二)、原告会社の設立関係、訴外斉藤松次郎からの資産、負債、建物の譲受けがあつたこと、被告主張どおりの火災保険契約、共済契約の締結、その目的である商品、建物の焼失の事実は認めるが、原告は右訴外人からその資産の全部を譲受けたものではなく、また被告主張の焼失建物の面積は事実に反する。右訴外人は、その資産のうち価格金三、五〇四、二一〇円を下らない商品を留保し、その余の金七、五四七、〇八〇円相当の商品を原告に譲渡したにすぎない。また、右焼失建物の総床面積は四四六・二七平方メートルであるところ、そのうち原告に譲渡されたのは床面積二三八・〇一平方メートル(七二坪。すなわち一階二六坪、二階二七坪、三階一九坪)の部分にすぎず、残余の床面積二〇八・二六平方メートル(六三坪。すなわち一、二階各二〇坪、三階一七坪、地下六坪)の部分は、訴外人の所有に留保されていた。

(三)、原告および訴外斉藤松次郎が、被告主張の各保険金、共済金を受領したこと、受取保険金、共済金の全額につき、原告において入金処理がなされたことは認める。

(四)、焼失建物の帳簿価格が被告主張のとおりであつたことは認める。

しかし、訴外人は、その所有商品の全てを原告に譲渡したものではなく、保険契約共済契約上の被保険者の地位を譲渡した事実はない。原告の保険金、共済金の受領は右訴外人に代わつてなされたものにすぎず、それが原告に入金処理されたのは、原告において右訴外人から、正に借入れたからにほかならない。

また、焼失建物の価格は、その建物の構造、経過年数、新築などの事情を考慮すると、原告の譲受建物部分が坪当り金三〇、〇〇〇円、右訴外人への残留建物部分が坪当り金七〇、〇〇〇円余とみるのが相当であるから、両者の建物の価格割合は被告主張のようになるものではない。

(五)、仮りに、右保険金、共済金が焼失商品、建物の所有持分の割合に応じて按分されるものとして、焼失商品については、前記のように金三、五〇四、二一〇円相当の商品が訴外人に留保されていたのであるから、右商品全部に対応する保険金、共済金の合計金一一、九三四、四二五円を、譲渡分と留保分の価格割合により按分すれば、右訴外人に留保されていた商品に対応する分が少くとも金二、二〇〇、〇〇〇円となり、これは右訴外人の取得分とされるべきである。また、焼失建物については、原告と訴外人両名の各建物所有部分の面積に前記坪当り価格を乗じて算出された額の割合に応じて、焼失建物に対応する保険金、共済金五、六一七、八四九円を按分するのが相当であり、そうすれば、右金額のうち少くとも金三、五〇〇、〇〇〇円は右訴外人の取得分といわねばならない。そのほか、右訴外人は、火災直後の後片づけの費用金二〇、六五五円を立替払したから、原告に対し同額の償還請求権を有する。

以上の合計金五、七二〇、六五五円が、右訴外人から借入金(いわゆる社長勘定)として前記貸借対照表(二)の負債、資本の部、に計されるべきである。

そこで、同表によつて計算すると、その負債、資本の部に被告が計上した借入金三、七七六、九二四円に代えて、右訴外人からの借入金五、七二〇、六五五円、他からの借入金九六〇、〇〇〇円(貸借対照表(一)の借入金九八〇、〇〇〇円が誤でりあることは認める。)合計金六、六八〇、六五五円を計上し、同保険差益特別勘定、当期純利益の各全額を除くと負債、資本の部の合計は金一六、〇九六、八九三円となり、これから資産の部の合計金一四、九八六、一〇三円を控除すると金一、一一〇、七九〇円となるので、これを当期欠損金として同表の資産の部に加うべきである。

以上の理由により、第一事業年度に所得がある旨の被告の主張が誤りであることは明らかである。

二、(一)、原告が第二事業年度の確定申告にあたり、別紙第三の貸借対照表(三)を提出したこと、同年度の預金、買掛金の各金額が貸借対照表(四)に記載のとおりであることは認めるが、同表の借入金、未払事業税、保険差益特別勘定、繰越利益剰余金、当期純利益の各金額については争う。

もつとも、第二事業年度末において法人成りの際の訴外人以外からの借入金額は被告主張のとおりである。

(二)、原告は、第二事業年度中に右訴外人から、前記保険金、共済金のうち、金五、七〇〇、〇〇〇円を除き、その余を、原告会社がさきに譲り受けた焼失商品、建物に対応するものとして、譲受けた。右金五、七〇〇、〇〇〇円に、訴外人が原告に対し有する前記償還請求権(金二〇、六五五円)を加えた合計金五、七二〇、六五五円が訴外人からの借入金(いわゆる社長勘定)である。

そこで、前記貸借対照表(四)によつて計算すると、その負債、資本の部に被告が計上した金五、一〇六、九二四円に代えて、右訴外人からの借入金五、七二〇、六五五円、短期借入金二、八〇〇、〇〇〇円合計金八、五二〇、六五五円を計上し、同未払事業税、保険差益特別勘定、繰越利益剰除金、当期純利益の各科目の金額を除くと、負債、資本の部の合計は金一一、三八五、〇二一円となり、これから資本の部の合計金一一、二五六、五九八円を控除すると金一七八、二三六円となるので、これを当期欠損金として同表資産の部に加うべきである。

このような次第であるから、第二事業年度に所得がある旨の被告の主張も誤りであることが明らかである。

第五、証拠関係

一、原告

甲第一ないし一五号証を提出し、証人島津信司、同平山惣一、同斉藤松次郎の各証言を援用し、乙第一六号証の成立は不知と述べ、同第二一号証を除きその余の乙号各証の成立は認めると述べた。

二、被告

乙第一号証の一ないし一一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四、五号証の各一、二、第六号証、第七号証の一ないし二〇、第八号証、第九ないし一一号証の各一、二、第一二号証、第一三号証の一ないし一一、第一四ないし二一号証を提出し証人梶村礼次郎の証言を援用し、甲第一三、第一五号証の成立は不知と述べ、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一、請求の原因一、二および四の事実は、当事者間に争いがない。

二、本件第一の更正処分ならびに無申告加算税賦課決定処分の違法の有無について検討する。

(一)、原告が第一事業年度の確定申告にあたり、別紙第二の貸借対照表(一)(以下単に「貸借対照表(一)」という)を提出したこと、同年度の買掛金、支払手形の金額が、被告作成にかかる別紙第二の貸借対照表(二)(以下単に「貸借対照表(二)」という)に記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。また、同年度の貸借対照表に計上すべき現金、預金、売掛金、商品、建物、出資金(以上、資産の部)、資本金(負債および資本の部)の各金額が、右の貸借対照表(二)記載のとおりであることは、原告において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなされる。

(二)、被告は、原告がなした貸借対照表(一)の負債および資本の部の借入金、受取保険金の計上並びに金額に誤りがあり、それは原告に帰属すべき同事業年度の受取保険金を、訴外斉藤松次郎(以下単に訴外人ともいう。)に帰属すべきものとして処理したことによるものであつて、これを貸借対照表(二)の同部の借入金、保険差益特別勘定のごとくであつたとして、本件第一の更正処分の適法なることを主張するので、以下、検討を加える。

1  訴外斉藤松次郎は、毛糸、雑貨等の卸小売業を営んでいたところ、原告は、昭和三八年七月二五日右訴外人から商品、建物等を譲り受け、右訴外人の同族が出資して設立された資本金一、〇〇〇、〇〇〇円の有限会社であること、右訴外人は、右の法人成りの前後にわたり、別紙第四の一覧表記載のとおり、訴外大正海上火災、日新火災海上との間に火災保険契約を、青森県火災共済との間に共済契約をそれぞれ締結していたところ、昭和三九年二月二一日、火災によりそれらの目的である商品、建物の大部分が焼失したこと、大正海上火災との保険契約の被保険者は、当初訴外斉藤松次郎とされていたが昭、和三九年三月二六日被保険者を原告とする異動承認があり、大正海上火災から焼失商品に対する保険金として原告に対し金一一、六四〇、〇二五円が交付されたこと、日新火災海上の被保険者は右訴外人とされていたが、訴外弘前相互銀行が右保険金請求権の上に有していた質権に基づいて昭和三九年三月一七日焼失建物に対する保険金として金四、九三〇、九一七円を受領したこと、青森県火災共済との共済契約における被共済者は右訴外人であつて、共済金九八一、三三二円のうち、共済目的が焼失商品であるものに対する分は金二九四、四〇〇円であり、共済目的が焼失建物に対する分は金六八六、九三二円であつたこと、右保険金、共済金の合計金一七、五五二、二七四円は、原告において、その金額を「受取保険金」名下に入金処理しながら、一方においてはそれは右訴外人に帰属するものとして原告の負債勘定として扱つたこと、以上の各事実は、当事者間に争いがない。

2、そこで、まず右保険金、共済金のうち焼失商品に対するものの帰属について検討する。

成立に争いがない乙第一三号証の二、四、同第一五号証、証人梶村礼次郎の証言により成立が認められる乙第一六号証、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第二一号証、右証言、弁論の全趣旨を総合すれば、前記のように、訴外斉藤松郎、原告会社の設立にあたり、自己の営業商品である毛糸、雑貨品等を原告に譲渡したのであるが、本件各更正決定に対する審査請求について仙台国税局協議団青森支部において調査したところ、昭和三八年七月二四日現在の右訴外人の営業における期末たな卸商品の金額と、原告会社設立時に、設立申告書に添付された同日付けの貸借対照表資産部の在庫品高とが、ともに七、五四七、〇八〇円で一致していたこと訴外大正海上火災は、右訴外人の申請に基づき、昭和三九年三月二六日焼失商品を目的とする別紙第四の一覧表記載の各火災保険契約の被保険者を、右訴外人から原告に変更したこと、右訴外人は、原告会社が設立されて以来、原告の営業とは別途に、自己の個人営業をなした形跡は全くないことをそれぞれ認めることができ、この事実と1の争いない事実によると、原告は、法人成りに際し、右訴外人からその営業用商品全部を譲り受けたものであり、かつ右譲り受け商品の全部が大正海上火災の保険契約、青森県火災共済の共済契約(商品に対する分)の目的となつていたものと認めるのが相当である。

証人島津信司の証言中、訴外斉藤松次郎が原告に引継がなかつた品物があつたとの部分は、右訴外人からその旨を聞いたとの趣旨の域を出ないものであり、右訴外人が原告に譲渡した商品高は六、七百万円に過ぎず、なお四、五百万円相当の簿外商品が右訴外人個人所有物件として留保されていたとの証人斉藤松次郎の証言、およびこれを上廻る商品が原告会社設立後も、右訴外人の所有物件として留保されていた趣旨を記載した乙第一七号証は、その根拠が明らかでなく、右各認定事実に対比するときは、たやすく信用し難いものである。また、右証人斉藤松次郎の証言によつて成立が認められる甲第一三号証によれば、火災後間もなく行なわれ、保険金共済金支給の基礎とされた査定においては、商品焼失による損害額が一、五〇〇〇万余円とされているが、右証言によれば、商品損害算定の基礎となる書類も大部分焼失し、訴外人に留保されていた商品の有無、その内容の調査はもつぱら右訴外の記憶によつてなされたというのであり、右査定が支払われるべき保険金確定のためのものであつてみれば、これをもつて、前記各証拠に反し、訴外人の所有に留保されていた商品があつたと認めしめるに足るものということはできない。他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

次いで、右のように、大正海上火災の保険契約および青森県火災共済契約の目的となつていた焼失商品が、全て訴外斉藤松次郎から原告に譲渡されたことを前提として、右焼失商品に対する保険金、共済金が原告に帰属するものであるか否かにつき、検討を進めると、前述のように大正海上火災との保険契約においては、当初被保険者は右訴外人であつたのであるが、右のように保険の目的である焼失商品が原告に譲渡されたのであるから、これに伴つて右保険契約上の権利である保険金請求権も原告に譲渡されたものと認めることができる(商法六三〇条、六五〇条一項。)。のちに、被保険者が訴外から原告に変更されたことは、このことを裏付けるものである。

一方、青森県火災共済との関係においては、被共済者は依然訴外斉藤松次郎のままであつたことについては当事者間に争いがない。そして、右火災共済事業の準拠法である中小企業等協同組合法によれば、共済契約の目的が譲渡されても、火災共済協同組合の承諾がなければ、その譲受人も共済契約上の権利を承継できず、目的の譲渡により組合員等の財産でなくなつても、契約期間内は組合員の財産とみなされるものとされている(同法九条の七の四)。しかし、同法による火災共済事業は、元来火災保険事業と法律的性格をほぼ同じくするものであつて、商法の損害保険及び火災保険に関する規定が大幅に準用され、ただ保険の場合と異なり、共済は組合員の財産についてなされ(同法九条の七の二)、かつ組合員たる資格が法律で制限されているので、共済の目的が譲渡された場合、譲渡人、譲受人とも共済を受けられないという不当な不利益を蒙るおそれがあることから、かかる不利益を救済する趣旨で、共済の目的譲渡の場合の右のごとき規定が定められているのである。従つて、右の規定により、火災共済協同組合との関係においては、共済金が組合員である目的物の譲渡人に交付されるべきものとしても、譲渡人に交付された共済金が、共済目的の譲渡人と譲受人との間において、そのいずれに属すべきかは別異に考えねばならないのであつて、右にみたような火災共済事業の本来的性質に鑑みるときは(すなわち、火災共済事業においても、元来被共済利益の存するところに共済がなされるべきである。)、特段の事情の認められない限り、共済目的を譲渡する契約には、後に組合員である譲渡人が共済金の交付を受けた場合は、これを譲受人に譲渡する旨の合意が含まれているものと解するのが相当である。してみれば、特段の事情の認められない本件においては、青森県火災共済からの焼失商品に対する共済金も、焼失商員の譲受人である原告に帰属したものということができる。

以上の次第であるから、焼失商品に対するとして支払われた大正海上火災の保険金、青森県火災共済の共済金(以上合計金一一、九三四、四二五円)は、いずれも原告に帰属したものであつて、(これらが、第一事業年度中に原告に入金されていることは当事者間に争いがない。)、原告が主張するようにその全部または一部が訴外斉藤松次郎に属するものではないといわねばならない。

3、次に、焼失建物に対する保険金、共済金の帰属について検討する。

まず、右保険金および共済金の目的である焼失建物の、右焼失当時の所有関係についてみると、焼失建物はもと訴外斉藤松次郎の所有であつたところ、昭和三八年七月二五日の原告の法人成りに際し、焼失建物の所有権が、その全部であるか一部であるか、また持分の譲渡にとどまるかは兎も角、右訴外人から原告に対し譲渡されたことは、弁論の全趣旨によつて充分肯認されるところである。そして、前掲乙第二一号証、成立に争いがない甲第一ないし一二号証、同第一四号証、乙第一四号証、同第一八ないし二〇号証、前掲斉藤松次郎、同梶村礼次郎の各証言、弁論の全趣旨によれば、焼失建物の登記簿、家屋台帳、家屋税台帳、共済契約申込書、火災保険申込書等によつても、焼失前の右建物の各階の床面積はもちろん、総床面積も一一五坪七五(三八二・六四平方メール)ないし一三六坪七五(四五二・〇六平方メートル)というように区区であること、原告の営業はもつぱら右焼失前の建物の各階を店舗または倉庫として行なわれていたのであるが、同時に右訴外人およびその家族が住宅用として右建物の一部を使用していたこと、台帳上の所有名義は依然斉藤松次郎のままであつたこと、被告は、原告に焼失建物の如何なる部分が属するかを調査したか、右訴外人の居住用部分の面積を確定する客観的資料がなかつたところから、止むなく原告に対し右焼失建物の総面積と原告が同訴外人から譲り受けた部分の床面積についての回答を求めたところ、原告から総床面積を四二九・六平方メートル(一二九坪九六)、うち原告の譲受部分を二六五・五平方メートル(八〇坪三二)とする書面(乙第一四号証)の提出があつたこと等の各事実を認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。そして、右の原告提出の書面(乙第一四号証)の記載の総床面積は、前記登記簿、台帳等の記載と完全に符合するものではないが、ほぼ近似し、事実に副うものと推測できるし、原告と右訴外人の各帰属床面積についても、同書面の記載のほか、これを確知する資料は本件全証拠によつても覗い得ない。

右のような事実関係、事情のもとにおいては、右の原告から提出された書面に準拠して、訴外人の所有に留保されていた部分と、原告に譲渡されその所有になつた部分の各床面積を推定するのが相当である。もつとも、被告において右訴外人の昭和三八年七月二四日現在における資産を調べたところ、その所有建物の帳簿価格は金三、一〇七、六〇三円であり、右同日付で作成された原告の貸借対照表における建物の金額も右と同額であつたから、かつて訴外人の所有であつた焼失建物は、原告の設立に際し全て原告に譲渡されたものと一応推定する余地もないではないが、前記のように焼失建物の台帳上の名義は斉藤松次郎のままで、右建物には訴外人の居住用部分が存した等の前記事情のもとでは、その一部が右訴外人の所有に留保されていたものと認めるのが相当である。また証人斉藤松次郎の証言中、右訴外人の所有に留保されていた部分の面積が右書面記載を超えるとの趣旨の部分はにわかに信用することのできないものであり、右証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一五号証も、それが焼失建物の基礎を焼失後に測量した図面に過ぎないものであつてみれば、右の各判断を左右するに足るものではない。

ところで、原告が被告に提出した前記書面には、右焼失建物の価格について、右訴外人の所有に留保されていた部分と原告所有部分の区別なく、一率に一平方メートル当り金一二、〇〇〇円なる記載があり、その他右各認定の事情を併せ勘案すると、右両部分の床面積部分の床面積の単位価格は同額であつたと推定される。証人斉藤松次郎、同平山惣一の各証言中には、住宅部分と店舗部分の坪当り価格には相当の距りがあつたとの趣旨の部分があるが、また右斉藤松次郎の証言によれば、右訴外人の住居用のみでなく、原告の従業員のためにも住居部分が使用されていたことが認められ、試みに、原告の作成にかかる成立に争いない乙第一七号証の記載によつて原告に譲渡された部分と訴外人の所有に留保されていた部分の各建築費を算定するとその間に大差がないのであつてみれば、右各証言を直ちに採用することはできない。

従つて、原告に譲渡された建物部分と訴外人の所有に留保された部分の坪当り価格は、同額と認めるのほかはない。

以上は、要するに焼失建物に対する保険金、共済金の帰属を判断する前提として、焼失建物中原告と右訴外人の各所有に属した部分の有無およびその割合を認定するためのもので、右各証拠、認定の事実関係のもとでは、叙上のように認めるのが条理に適合したものと思科する次第である。

そこで、焼失建物に対する保険金すなわち日新火災海上の保険金四、九三〇、九一七円および青森火災共済の焼失建物に対する共済金六八六、九三二円の帰属について判断すると、右の保険、共済の目的である焼失建物のうち、その価格の六一・八パーセント(原告に譲渡された部分の床面積二六五・五平方メートルが焼失建物の総床面積四二九・六平方メートルに占める割合)に相当する建物部分は、訴外人から原告に譲渡されたとみるべきこととなるから、これにより、特段の事情の認められない本件においては、訴外人の日新火災海上に対する保険金請求権も、右と同一割合で原告に譲渡されたものと認められる。(右の日新火災海上からの保険金請求権には弘前相互銀行の質権が設定されていて、その実行の結果右保険金は全額同銀行において受領し、しかも右質権設定当時の被担保債務関係は同銀行と右訴外間に存したこと前記のとおりであるが、前掲乙第一三号証の四によれば、原告は設立に当り右訴外人の借入金債務を引受けたことが認められ、かつ右訴外人の営業当時の借入金債務のうち原告の引受けないものが存した事跡はないから、訴外人の弘前相互銀行に対する右債務も、原告において引受けたものと認められる。そうであつてみれば、原告は自己に帰属した保険金をもつて自己の弘前相互銀行に対する債務を弁済したのであり、訴外人は訴外人に帰属した保険金をもつて原告の同銀行に対する債務を弁済したこととなる。)。

また、焼失建物を目的とする青森県火災共済からの共済金は、前項において焼失商品を目的とする共済金について述べたと同じ理由により、たとえその被共済者が同火災共済との関係においては右訴外人とされていたとしても、右訴外人と原告との間においては、焼失建物につき原告の譲受け部分の占める割合と同一割合すなわち六一・八パーセントの共済金が原告に帰属したものと解するのが相当である。

4、結局、原告は、焼失商品を目的とする前記保険金、共済金についてはその全部である金一一、九三四、四二五円を取得し、これは旧法人税法九条(法人税法二二条二二項)により益金たるべきものである。また、原告は、焼失建物を目的とする前記保険金、共済金合計金五、六一七、八四九円のうち金三、四七一、八三〇円を取得したというべきであるから、これも右法条により本来全額益金に算入されるべきものであるが、これと原告が譲り受けた建物の帳簿価格金三、一〇七、六〇三円との差額三六四、二二七円は、原告がこれをもつて被害年度の翌事業年度開始の日から二年以内に代替資産を取得しようとしていたことは当事者間に争いがないから、右差額を特別勘定として損金に算入するのが相当である(旧法人税法施行規則一三条の二)。そして、焼失建物を目的とする保険金、共済金のうちその余の金二、一四六、〇一九円は訴外斉藤松次郎の取得分で、これが原告に入金されているのは、他に特段の事情のない本件においては、右訴外人からの借入金として処理するのほかはない。

(三)、原告の、訴外斉藤松次郎以外のものからの借入金が金九六〇、〇〇〇円であることは、当事者間に争いがなくまた、成立に争いがない乙第一三号証の四および弁論の全趣旨によれば、前項に述べた焼失建物を目的とする保険金、共済金のうち原告の負債勘定として計上すべきもの以外に、右訴外人からの資産譲受けの対価残金で原告の負債勘定となるべきものが、金六七〇、九〇五円の限度で認められる。右乙第一三号証の四記載の「社長勘定」中、右金額を越える分は、これを認めるに足る証拠はなく、また、原告は、右訴外人が原告に代つて、火災の後始末のための費用として金二〇、六五五円を立替支出した旨主張するが、右訴外人においてかかる金員を支出したことを認めるに足る証拠もないから、右主張も採用できない。

(四)、以上(一)ないし(三)に述べたところによれば、第一事業年度の貸借対照表には、焼失商品、焼失建物に対する保険金、共済金の合計金一七、五五二、二七四円の全額を右訴外斉藤松次郎からの借入金として計上すべきでなく、焼失商品に対する分の全額金一一、九三四、四二五円と焼失建物に対する分のうち金三、一〇七、六〇三円は、借入金勘定から除算さるべきものであり、従つて、同年度の貸借対照表において借入金となるのは、右焼失建物に対する保険金、共済金のうち右訴外人に帰属するものでありながら原告に入金となつた金二、一四六、〇一九円右訴外人以外からの借入金九六〇、〇〇〇円、右訴外人から資産を譲受けた対価の残金六〇、九〇五円、以上合計金三、七七六、九二四円であり、そのほか保険差益特別勘定三六四、二二七円があるから、結局、貸借対照表(二)のとおり修正されなければならない。

右と同一の見地に立つて、原告の第一事業年度における法人税の課税標準となる同年度の所得の金額を金一、四二八、七一四円とし、これに対する法人税額を金四七一、四七〇円とした本件第一の更正処分は相当であつて、そこに原告が主張するごとき違法はない。

(五)、また、原告が第一事業年度分の確定申告書を、法定の提出期限を徒過した昭和三九年八月三一日に至りはじめて被告に提出したことは当事者間に争いがないから、国税通則法六六条により右所得金額の一〇パーセントに相当する無申告加算税金四七、一〇〇円が賦課されるべきであつて、その旨決定した被告の処分にも何ら違法の点はない。

三、次いで、本件第二の更正処分ならびに過少申告加算税賦課決定処分の違法の有無について検討する。

(一)、原告が第二事業年度の確定申告にあたり別紙第三の貸借対照表(三)(以下単に「貸借対照表(三)」という)を提出したことは当事者間に争いがなく、同年度の貸借対照表に計上すべき現金、預金、売掛金、商品、仮払金、車輔運搬具、工具器具備品、出資金(以上資産の部)、支払手形、買掛金、資本金(以上負債および資本の部)の各金額が別紙第三の貸借対照表(四)(以下単に「貸借対照表(四)」という)の該当各欄に記載のとおりであることは、原告において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなされる。

(二)、ところで第一事業年度末において、借入金として計上されるべきものであつた金三、七七六、九二四円のうち訴外斉藤松次郎に帰属するものでありながら原告に入各となつた金二、一四六、〇一九円は、第二事業年度中においてその全部または一部が右訴外人に支払われた形跡を認めることができないから、そのまま第二事業年度においても借入金とされるべきである。この点につき、原告は、第二事業年度に至り漸く前記焼失商品、焼失建物に対する保険金、共済金の経理が明らかとなり、内金五、七〇〇、〇〇〇円が右訴外人からの借入金となる旨主張するが、第一事業年度中に原告に入金となつた前記保険金、共済金のうち、右訴外人からの借入金となるべきものが右の二、一四六、〇一九円にとどまることは既述のとおりであり、原告はこれと異なる前提にたつて独自の経理を主張するものに過ぎず、それを裏付ける事実を認めるに足る何らの証拠もない。また、右訴外人が原告に代つて立替支出したと主張する火災後仕末の費用を認めるに足る証拠がないことも前記のとおりである。

(三)、右のほか、第一事業年度末において保険差益特別勘定として損金に算入された金三六四、二七七円についてはその後の特段の事情が認められないから、第二事業年度末においてもこれを同じく預金に算入すべき事実関係にあつたものと認めるのが相当である。

さらに、第一事業年度について説示したところおよび弁論の全趣旨によれば、第二事業年度末において、右訴外人からの資産譲受けの対価残金一六〇、九〇五円並びに右訴外人以外からの短期借入金二、八〇〇、〇〇〇円が存したことを認めることができる。

また、第一事業年度において事業税の賦課の対象となる所得が生じていたとは明らかであるから、これと弁論の全趣旨を併せれば、第二事業年度末において未払事業税金九五、八四二円が存したことが認められる。

(四)、以上、(一)ないし(三)に述べたところに、第一事業年度からの繰越利益剰余金を計上すれば、第二事業年度末において作成されるべき貸借対照表は、結局貸借対照表(四)のとおりとなる。

従つて、第二事業年度における原告に対する課税標準となるべき同年度の所得は金一、三九六、七一二円となり、右と同一の見地に立つて、同年度の所得金額を右と同額と更正し、納付すべき税額を金四三二、九七〇円と更正した被告の更正処分は適法であつて、そこに原告主張のごとき違法はない。

(五)、また、右の次第であるから、右更正処分により新たに納付することとなつた税額について国税通則法第六五条一項により過少申告加算税一八、六〇〇円が原告に対し賦課されるべきである(更正前の税額の基礎とされていなかつたものにつき、右計算の基礎とされなかつたことに正当な理由があつたとは認められない。)から、右の賦課をなした被告の処分にも違法はない。

四、以上のとおり、被告がなした本件第一、第二の各処分はいずれも適法なものであり、そこに違法の点はないから原告の本訴請求は全て理由がない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用は原告に負担させて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石忠生 裁判官 久末洋三 裁判官 中條秀雄)

別紙第一

目録

第一、昭和三八年七月二五日から昭和三九年五月三一日までの事業年度分

(一)、欠損金額 一三、四九八、〇七九円を

所得金額 一、四二八、七一四円に

(二)、納付すべき税額 四七一、四七〇円と

各更正した処分

(三)、無申告加算税 四七、一〇〇円を

賦課決定した処分

第二、昭和三九年六月一日から昭和四〇年五月三一日までの事業年度分

(一)、所得金額 一九六、七七〇円を

同 一、三九六、七一二円と

(二)、納付すべき税額 六〇、九〇〇円を

同 四三二、九七〇円と

各更正した処分

(三)、過少申告加算税 一八、六〇〇円を

賦課決定した処分

別紙第二

貸借対照表(一)

昭和三九年五月三一日現在

<省略>

貸借対照表(二)

昭和三九年五月三一日現在

<省略>

別紙第三

貸借対照表(三)

昭和四〇年五月三一日現在

<省略>

貸借対照表(四)

昭和四〇年五月三一日現在

<省略>

別紙第四

一覧表

<省略>

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